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東京高等裁判所 昭和48年(ネ)2076号 判決

控訴人

協和建設工業株式会社

右代表者

西川忠信

右訴訟代理人

川又次男

被控訴人

古島鉄管株式会社

右代表者

古島一雄

右訴訟代理人

杉永義光

当審参加人

佐藤金属株式会社

右代表者

佐藤昭寿

右訴訟代理人

松尾翼

外三名

主文

本件控訴を棄却する。

参加人の控訴人に対する主位的請求並びに被控訴人に対する各請求をいずれも棄却する。

控訴人は、参加人に対し、金五九二、二九二円及びこれに対する昭和四三年四月一六日から支払済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。

控訴費用は控訴人の負担とし、参加費用中、参加人と控訴人との間においては、参加人に生じた費用の二分の一は控訴人の貞担とし、その余は各自の負担とし、参加人と被控訴人との間においては全部参加人の負担とする。

この判決の第三項は、参加人において仮に執行することができる。

事実〈省略〉

理由

(被控訴人の本訴請求について)

一井出商店が、給排水用鋳鉄管、鋼管等の販売を目的とする株式会社であるところ、被控訴人は、昭和四二年一〇月以降翌四三年三月末日ごろまでの間、井出商店に給排水用鋼管等の給排水衛生設備用品を売渡し、その売掛金債権の現在高が少なくとも合計金六、六〇五、三〇〇円に上ること、井出商店は昭和四三年三月末日ごろ倒産し、無資力であること、井出商店は、控訴人に対し、同年二月二一日以降翌月二〇日までの間、毎月二〇日締切り翌月一五日払いの約で給排水用鋳管等、鋼管等を売渡し、その売掛代金の現在高が金一、一〇二、二一五円に上ること、以上についての当裁判所の認定は、原判決の理由と同じであるから、その理由欄一及び二(二)を引用する。

二控訴人の債権譲渡の抗弁について判断するに、〈証拠〉中には、井出商店が昭和四三年三月二三日ごろ、同店の控訴人に対する前認定の売掛代金債権を参加人に譲渡する旨約したとの控訴人の主張にそう供述部分が存するが、右供述部分は、〈証拠〉に照らしたやすく採用できないところであり、〈証拠〉は、井出商店から控訴人に発せられた債権譲渡通知書であるが、〈証拠〉によれば、同証は官署作成部分を除き、参加人が当時保管中の井出商店の印章を冒用して作成したものであることが認められるので、控訴人の主張事実の認定資料とはなし難く、他に右事実を認めるに足りる証拠はない。

三控訴人の当審における一の抗弁について判断するに、〈証拠〉によると、井出商店代表取締役井出正は、昭和四五年八月六日、井出商店の控訴人に対する債権に関し、控訴人が先に、右債権を譲受けたと主張する参加人に金五〇九、九二三円を支払うことによつて同額の金銭を出捐しているので、控訴人に重ねて請求することはしない旨を約したうえ、控訴人より精算金名義で金一〇〇、〇〇〇円の贈与を受け、井出商店の控訴人に対する一切の債権の存在しないことを確認したことが認められる。右事実によると、井出正は、控訴人に対し、井出商店の控訴人に対する前記認定にかかる売掛債権金一、一〇二、二一五円につき免除の意思表示をなしたものと認めるべきである。

ところで、被控訴人の本訴提起は昭和四五年三月二〇日であるが、井出正の右債務の免除はその後の同年八月六日であつて、〈証拠〉によれば、井出正はその当時、被控訴人の本訴提起を知つていたものと認められるから、同人は右事実を知つた以後、その代位された権利を消滅せしめるべき一切の行為をすることはできないのは勿論、自らその権利を行使することはできないものと解すべきである(大審院昭和一四年五月一六日判決参照)から、井出正の右債務免除の意思表示は、これをすることができないのになした無効のものとして効力を生ずるに由ないものであるから、右抗弁は採用できない。

四控訴人の当審における二の抗弁について判断するに、控訴人あての債権譲渡通知書(乙第二号証)は、参加人が井出商店の印章を冒用して作成したものであることは、二項に認定のとおりであるところ、〈証拠〉によると、井出商店は、同店の売掛債権が参加人に譲渡された旨の通知書が発送されたことを知つて昭和四三年四月一一日ごろ、各売掛先に対し、右譲渡は無効である旨を通知していることが認められ、かつ、〈証拠〉によれば、控訴人が金五〇九、九二三円を支払つた際、これを参加人に支払うにつき少なからず不安を抱いていたことが窺知されるので、控訴人が、参加人に弁済受領の権限があると信じるにつき無過失であつたとは到底認め難く、右抗弁は、その他の点を判断するまでもなく採用できない。

五控訴人の当審における三の抗弁について判断するに、前記一項の認定によれば、被控訴人が井出商店に真実債権を有し、同店は無資力である等代位権行使の要件が備わつていて、被控訴人の本件代位権行使が適法であることが認められるから、その対象たる債権につき、他の債権者たる参加人も代位権に基づく権利行使に出たとしても、それが被控訴人の右代位権行使の権限になんらの妨げとなるものではないから、右抗弁は主張自体失当である。

六以上によると、被控訴人が井出商店に代位して、控訴人に対し、金一、一〇二、二一五円及びこれに対する弁済期の後である昭和四四年一月一日から右支払済に至るまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める被控訴人の本訴請求は全部理由がある。

(参加人の請求について)

一井出商店が、給排水用鋳鉄管、鋼管、パイプ等の販売を目的とする株式会社であることは、弁論の全趣旨によつて明らかであり、〈証拠〉によると、参加人は昭和四二年八月一七日から翌四三年三月二一日までの間、井出商店にガス管及び鉛管を売渡し、同月二七日現在の売掛金債権額は金三四、〇八〇、七二〇円に上ること、井出商店は同月末日ごろ、手形の不渡事故を起こして倒産したが(同店倒産の事実は当事者間に争いがない。)、当時、同店の負債総額は約三億円にも上つたのに対し資産としては僅かに千数百万円の売掛金債権を有するのみであつたことがそれぞれ認められ、右認定に反する証拠はない。

二井出商店が昭和四三年二月二一日から翌月二〇日までの間、控訴人に対し、毎月二〇日締切り翌月一五日払いの約で給排水用鋳鉄管等を売渡したことは、弁論の全趣旨によつて明らかであり、右取引による井出商店の控訴人に対する売掛代金債権の額が金一、一〇二、二一五円に上ることは、被控訴人の本訴請求についての判断一項に記載のとおりである。

三参加人は、井出商店より同店の前項記載の売掛代金債権の譲渡を受けた旨主張するが、右主張事実を認めることのできないことは、被控訴人の本訴請求についての判断二項に記載のとおりである。

してみると、参加人の請求中、その主位的請求は、控訴人及び被控訴人のいずれに対しても右債権譲渡が有効になされたことを前提とするものであるから、その他の点を判断するまでもなく理由がない。

四次に、参加人の予備的請求について判断するに、参加人が井出商店の債権者として同店の控訴人に対する債権につき代位権を行使し、直接自己に金銭を支払うべきことを請求することができても、それは代位権行使の方法として許されるにすぎず、それによつて控訴人が直接、参加人に債務を負担することになるのではないから、参加人主張の相殺の意思表示は効力を生ずるに由ないものである。

しかしながら、参加人は、右相殺の意思表示とともに井出商店の控訴人に対する債権の全額につき代位権を行使し、そのうち金五九二、二九二円につきその支払を求めて訴を提起(当事者参加)しているというべきであるから、その代位権行使と被控訴人の代位権行使との競合の問題が生ずるが、そもそも債権者代位権は、債権保全のために均しく債権者に認められる制度であるから、初めに代位権の行使に着手した債権者に優越的地位を認めてそれを行使する権限(訴訟との関係では訴訟追行権)を独占せしめ、他の債権者の行使を許さないとすべき理由はなく、債権者は対等の地位において代位権行使の権限を有すると認めるべきであつて(もつとも、重複訴訟という訴訟法上の制約はあるが、本件は、参加人の行使が当事者参加によるので重複訴訟禁止の理由は存在せず、その禁止にふれるものではない。)、数人の債権者が競合した場合には、裁判所は、それぞれの債権者につきその請求をともに認容すべきであると認めるのが相当である。

従つて、参加人の予備的請求中、被控訴人に対する請求は理由のないこと明らかであるが(それは、参加人のみ優越的地位において代位権を独占的に行使できるとの前提に立つていると解されるから)、控訴人に対し、金五九二、二九二円とこれに対する弁済期の翌日である昭和四三年四月一六日から右支払済に至るまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める請求は理由がある(なお、参加人は、その請求の原因第五項で遅延損害金を昭和四三年六月一五日以降求めているのは、相殺の意思表示の有効を前提としたものであるから、それが無効とされる場合は、主位的請求の場合と同様、請求の趣旨記載のとおり求める趣旨と理解される。)。

(結論)

以上の次第であるから、被控訴人の本訴請求を全部正当として認容した原判決は相当であるから、本件控訴はこれを棄却し参加人の請求中、被控訴人に対する各請求並びに控訴人に対する主位的請求はいずれも理由がなく失当として棄却すべきであるが、控訴人に対する予備的請求は理由がありこれを認容すべきである(なお、念のため付言するが、本件では、控訴を棄却することによつて被控訴人の請求を認容した原判決を是認したうえ、控訴人に対し、参加人に金員の支払を命じているので、控訴人の井出商店に対する債務額を超えるとの誤解を招くおそれなしとしないが、これは、被控訴人と参加人がそれぞれの権限に基づき、井出商店の控訴人に対する同一の債権を行使しているからであつて、これらがともに認容されたからといつて、控訴人はもとより、自己の債務の額を超えて支払義務はなく、又、右いずれかの債権者に支払えば、その額に見合つた債務は消滅するのであるから、控訴人は、重ねてその分につき他の債権者に支払を強制されることもない。)。

よつて、控訴費用並びに参加費用の負担につき民事訴訟法第九五条、第九三条、第八九条、第九二条を、仮執行の宣言につき同法第一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(渡辺一雄 田畑常彦 丹野益男)

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